日本においても国内販売車の電動化について「2035年までに新車販売で電気自動車100%を実現する」と政府指針として表明されました。
電気自動車へ100%すればバラ色の社会がやってくるのでしょうか。
現時点において懸念されるEV車の問題点を取り上げてみました。
目次
充電設備の問題
国内においてEV車の普及には充電インフラの整備が課題となってきます。
欧州や中国ではEV化へのシフトが進んでいるためそれに伴い充電インフラも整備されつつあります。
しかしバッテリーへの充電インフラが十分に進んでいない日本では本格普及にはたくさんの課題があります。
自宅の充電機増設は約10万から20万円、急速充電器の設置費用は300万円から1,500万円かかるといわれています。
これらを合わせると約14兆円から37兆円のこの充電インフラコストが必要となります。
充電時間の問題
普通充電で5時間から8時間程度
急速充電で15分から30分程度といわれています。
戸建てで充電設備を持っている方は一晩かけてゆっくり充電させることができますが、そうでない方は充電設備があるところへ出向き充電する必要があります。
今後EV車の普及が進むことが予想されますので混雑している場合は長い待ち時間が必要となります。
集合住宅における問題点
集合住宅では管理費を毎月集め、それを使って施設の管理や補修を行っています。
集合住宅の駐車場も、管理組合の管轄であり、住民がEV車用の充電設備を希望した場合は管理組合の許可が必要となります。
管理組合の承認を得るにはマンションの所有者の三分の二以上の賛成が必要となります。
所有者の中には車を所有していない方もいるので賛成の議決を得るのは簡単ではありません。
大雪が降った時の問題

2020年の12月に東京と新潟を結ぶ関越自動車道では、雪で動けなくなる車両が相次ぎ17時間以上にわたって車内に閉じ込められるという事態が起きました。
モーターで駆動する電気自動車はガソリン車のように排熱を利用することができません。
そのため電気自動車は貴重な駆動用バッテリーを消費して熱を発生させているため暖房を使うとバッテリーの消耗が早まります。
場合によっては命の危険性にかかわってくる事態が予想されます。
バッテリーの劣化の問題
バッテリーは急速充電を繰り返すと劣化する性質を持っています。
スマートホンをお使いの方はお分かりになると思います。
一部の車では急速充電時の負荷を抑えることができるようになっているタイプの車も登場しているが、劣化を抑えるには家庭でゆっくりと時間をかけて充電するのを基本と考えた方がよいでしょう。
バッテリーは燃えやすいという問題

テスラモーターズ「Model S」
- 2019/4/21、中国・上海市徐匯区の集合住宅団地にある地下駐車場内で止めてあったテスラ社の乗用車が突然白煙を上げ、炎上した。
- 2019年08月21日、中国の新エネルギー車ベンチャーの雲度新能源汽車(本社:福建省)は8月12日、広西チワン族自治区南寧市で自社の電動スポーツ用多目的車(SUV)「π3」の発火事故が起きたと発表した。
- 中国のEV(電気自動車)新興企業であるWM Motorは2020年10月下旬、同社の自動車4台がわずか1カ月で発火し、1000台以上をリコールすると発表。
- 2021/05/15、中国のマンションで充電中の電動スクーターが原因の火災が起きました。中国では同様の火災が相次いでいて、社会問題となっています。
- 2021/05/17、広西チワン族自治区にある大学内で電動バス4台が突然炎上
注目
2021年4月、中国製の電気自動車(EV)が日本に本格的に導入されることが明らかになった。
導入するのは、SGホールディングスグループの佐川急便で、配送用の軽商用バンとして、中国・広西汽車集団が製造するEVを7200台を導入する。
雇用と電力不足の問題
- EV化が進めば自動車業界だけで70万人からから100万人が雇用を失うことになる。
- 乗用車400万台をすべてEV化したら夏の電力使用のピーク時に電力不足となり、解消には発電能力を10~15%増やさなければ賄いきれない。
原発でプラス10基、火力発電であればプラス20基必要な規模となる。


EV一辺倒は中国の独断場に
中国政府は、電気自動車(EV)化について、実に戦略的な取り組みをしています。
EV化を成し遂げるため、推進策と“選択と集中”策をまじえながら、真に国際競争力を伴う中国自動車産業を目指しています。
そのために欠かせないのが、EVの心臓部となるバッテリーで、そのバッテリー製造に必要なリチウムの市場シェアを80%持っていると言われています。
これは今後何年もバッテリー市場を牛耳ることができるほどの規模だ。
世界のバッテリーサプライチェーンには、中国が欠かせない存在になっており、EV化一辺倒になるほど中国の優位性が高まることになります。
中国政府は、電気自動車開発に必要なバッテリーや半導体などに補助金を出すことで、官民一体で競争力を増す政策を施行しています。
このことから、EVを使って自動車産業の覇権を握ろうとしている意図が見て取れる。
EV一辺倒の流れに異変が、トヨタの「全方位戦略」は正しかったのか?
これまで多くのメディアが、欧州における「2035年以降のエンジン車販売禁止」という施策を決定事項として報じてきていた。
しかし、最近になって大きな動きがあり、欧州は急きょ方針を転換しはじめた。
それは、ドイツのフォルカー・ウィッシング運輸・デジタル相が、「ゼロエミッション車にe-fuelのみで走行する内燃機関(ICE)車を含めない限り、法案を支持しない」と表明したためです。
EUはドイツのフォルクスワーゲン社などの反発を受けて、2023年3月25日、欧州委員会とドイツ政府は条件付きでエンジン車の新車販売を認める方針を示しました。
source 日本経済新聞
これに追随してイタリアやポーランド、ブルガリアなど多くの国々が、2035年のEV化法案に反対する動きを見せています。
e-fuel燃料とはCO2を再利用して製造する合成燃料のことです。
「e-fuel」という合成液体燃料を使用すれば、CO2を利用して燃料を作ることができので新車だけでなく既存の内燃機関の車にも使うことができます。

電気料金の高騰が背景に
こうした動きの背景には世界的なエネルギー不足が起こっており、電気料金が高騰していることが背景にあるからです。
日本の新聞によると、脱原発を進めているドイツでは、産業用電気代が日本の3.5倍も高くなっています。
イギリスでも光熱費が高騰しており、光熱費の支払いボイコット運動が起きています。
平均世帯の年間光熱費は、2023年には約108万円に上る見込みで、家計や生活に大きな影響を与える可能性があります。
このように、理想を掲げることは良いことですが、現実には背を向けられないということが、この大きな施策の転換の裏にあると言えます。
トヨタの全方位戦略は正しかった。
日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)は以前からイーフュエルに言及、「カーボンニュートラルへの道はひとつではない」としてぶれることなくその戦略を実行してきた。
現在の欧州の動きを見ていると、電気自動車(EV)一辺倒に慎重だったトヨタ自動車の見解が的を射ていたことになり、トヨタの「全方位戦略」は現実的な解だったということを示しているのではないでしょうか。